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4.事実の経過
甲丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,右舷錨を投じて錨鎖5節を伸出し,三重式見港の準備岸壁に船尾付け係留して車両12台を搭載し,乗客12人を乗せ,船首2.20メートル船尾5.35メートルの喫水をもって,平成17年3月11日06時18分同岸壁を発し,長崎県福江港に向かった。 ところで,A受審人は,出航予定時刻05時50分を過ぎたのち,06時00分昇橋し,折からの霧で視界が制限されている状況下,準備岸壁に船尾係留索を取ったまま揚錨を終え,バウスラスターを操作して船首を209度方向に保持し,南防波堤西灯台から065度1,630メートルの地点で予約車両の到着を待ち,その間に入航船の有無を1.5海里レンジとしたレーダーによって見張ったところ,06時13分右舷船首21度1.2海里のところに乙丸のレーダー映像を初めて探知し,その後,そのエコートレイルによって低速で入航する大型漁船であることを知った。 こうして,A受審人は,霧中であるにもかかわらず,一等航海士を出航後直ちに昇橋させて操船補佐に当たらせないまま,出航時から単独で操船に当たり,機関回転数及び翼角を徐々に上げながら内防波堤(B)と同堤(D)の間を通過したのち,06時21分半わずか過ぎ南防波堤西灯台から081度1,100メートルの地点で,針路を北防波堤に向く280度に定め,機関を回転数毎分650,翼角15度の半速力前進で,8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,法定の灯火を表示し,自動吹鳴装置により霧中信号を吹鳴し,手動操舵で進行した。 定針したとき,A受審人は,乙丸のレーダー映像を,左舷船首12度1,210メートルの西港口付近に認め,その後,同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを認めたが,同船が東西両泊地のいずれに向かうのかは知らなかったものの,低速力で入航していたことから出航する自船の存在を認識していて,中央ふ頭にできるだけ近寄って航行すれば左舷を対して無難に航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを停止することなく,レーダーレンジを0.75海里に切り替えて続航した。 06時23分半A受審人は,南防波堤西灯台から065度640メートルの地点に達したとき,GPSプロッターの画面を見ながら北防波堤南端を右舷側にわずかに離すよう針路を270度に転じ,06時24分わずか前左舷船首8度400メートルに認めた霧の中に乱反射した乙丸の作業灯の明かりの見え具合から,同船の航海灯を視認できないまま,左舷を対して航過できると思い,依然,速やかに行きあしを停止しないまま進行した。 A受審人は,北防波堤に接航する針路としていたことから,同堤への接近状況をGPSプロッターで注視しながら続航していたところ,06時25分わずか前左舷側至近に迫った乙丸の船影を認めて衝突の危険を感じ,右舵一杯,翼角を全速力後進としたが及ばず,06時25分南防波堤西灯台から038度350メートルの地点において,五島は,280度に向首し,約6ノットの速力で,その左舷中央部に乙丸の船首が前方から60度の角度で衝突した。 当時,天候は霧で風力1の南南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,視程は約300メートルで,日出時刻は06時36分であった。 甲丸は,なおも右転しながら前進し,北防波堤南端から20メートルの同堤東面に,左舷船首が30度の角度で衝突した。 また,乙丸は,B受審人ほか7人が乗り組み,2月26日07時00分船団の僚船とともに長崎県鯛ノ浦漁港を発し,東シナ海の漁場に至って操業を行い,越えて3月10日04時55分アジ,サバ約13トンを漁獲し,船首2.6メートル船尾4.1メートルの喫水をもって,水揚げのため単独で三重式見港中央ふ頭の西側岸壁に向かった。 翌11日05時30分ごろB受審人は,長崎県伊王島の西方4海里付近で昇橋して単独で入航操船に当たり,霧のため視界制限状態であることを知り,05時54分半南防波堤西灯台の南南西2.8海里で,機関を9.0ノットの半速力前進に減じ,霧中信号を行わないまま,法定の灯火を表示し,手動操舵で進行した。 06時07分半少し前B受審人は,南防波堤西灯台から193度1,800メートルの地点において,針路を006度に定め,機関を微速力前進と中立とを適宜繰り返して5.0ノットの速力に減じたものの,水揚げ準備を行わせるため,甲板上の作業灯を点じ,同灯の明かりが周囲の霧に乱反射した状態で続航した。 06時11分半少し過ぎB受審人は,6海里レンジとしたレーダーで南防波堤の内側に航行船がいないことを確認したのち,出航する小型漁船を見落とさないよう0.5海里レンジに切り替え,06時17分少し前更に0.25海里レンジに切り替え,甲板員と機関員を船首の見張りに配したものの,一等航海士を昇橋させて操船補佐に当たらせないまま,いったん行きあしを止めた後,再び微速力前進と中立を適宜繰り返しながら3.0ノットの速力とし,針路を保つことができる最小限度の速力に減じて進行した。 06時22分半少し前B受審人は,南防波堤西灯台から341度170メートルの地点で右転を終え,北防波堤南端を左舷側に約50メートル離す068度の針路とし,その後,同堤南端を左舷に見て航行するとき,できるだけこれに遠ざかって航行しなかった。 06時19分半少し過ぎB受審人は,南防波堤西灯台から270度220メートルの地点に達したとき,同灯台の灯光を右舷側に視認して,西港口の外側で北防波堤に寄せるつもりで同堤南端に向けてゆっくりと右転を開始した。 06時21分半わずか過ぎB受審人は,南防波堤西灯台から321度180メートルの地点に達し,船首が061度に向いたとき,右舷船首27度1,210メートルに五島のレーダー映像を探知することができ,その後,西港口に向けて西行する同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,専ら0.25海里レンジとしたレーダーで出航する小型漁船の有無を監視することに気を取られ,適切なレーダーレンジに切り替えるなどして,レーダーによる見張りを十分に行わなかったので,甲丸の存在に気付かず,必要に応じて行きあしを停止しなかった。 06時23分半B受審人は,甲丸の霧中信号を初めて聴取し,右舷船首15度540メートルに同船のレーダー映像を初めて探知したものの,自船がすでに西港口の北防波堤側に寄っていたことから,船首入港配置についた甲板員に出航船を探すよう指示し,自らも前方を注視しながら,行きあしを停止しないまま,原針路,原速力で続航中,06時25分少し前甲板上の作業灯の明かりが霧に乱反射した状況下,右舷前方100メートルに同船の船影を初めて視認し,左舵一杯,機関を全速力後進にかけたが及ばず,船首が040度を向き,約2ノットの速力で,前示のとおり衝突した。 衝突の結果,甲丸は,左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を,乙丸は船首及び球状船首に凹損をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理され,甲丸の乗客1人が腰椎捻挫を負った。更に甲丸と北防波堤との衝突により,甲丸の左舷船首及び左舷錨に凹損を,北防波堤のコンクリート部材に欠落をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。
(航法の適用) 本件は,夜間,霧のため視界が制限された,港則法の適用される三重式見港の西港口付近において,出航中の甲丸と入航中の乙丸が衝突したものであり,以下,適用される航法について検討する。 港則法には視界制限状態における航法規定がなく,海上衝突予防法(以下「予防法」という。)第19条が適用される。 港則法に定められた航法に関する規定のうち,避航に関する事項については,予防法第40条の規定によって同法第11条が準用されるものの,視界制限状態にあった両船に対しては準用されないので,防波堤入口付近を入航中の乙丸に対し,港則法第15条の適用はない。 衝突地点付近が,南防波堤西端と北防波堤南端によって形成される西港口と,更に北防波堤南端と内防波堤(E)西端によって形成される西泊地への出入口とがほぼ平行に並ぶ両口の境界付近の北防波堤南端沖合であり,複数の狭い水道等が競合していて,予防法第9条第1項の適用はないが,同地点が北防波堤の突端から80メートルのところであり,視界制限状態においても港則法第17条の規定が適用されるので,北防波堤の突端を左舷に見て航行する乙丸が,できるだけこれに遠ざかって航行しなければならなかった。
(本件発生に至る事由) 1 甲丸 (1) 視界制限状態で出航するにあたり,一等航海士を昇橋させて操船補佐に当たらせるなどして複数による船橋配置としなかったこと (2) 針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと 2 乙丸 (1) 霧中信号を行わなかったこと (2) 甲板上の作業灯を点灯していたこと (3) 視界制限状態で入航するにあたり,一等航海士を昇橋させて操船補佐に当たらせるなどして複数による船橋配置としなかったこと (4) 適切なレーダーレンジに切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行わなかったこと (5) 必要に応じて行きあしを停止しなかったこと (6) 北防波堤南端を左舷に見て航行するとき,できるだけこれに遠ざかって航行しなかったこと
(原因の考察) 本件は,甲丸が,霧のため視界制限状態となった長崎県三重式見港を出航中,乙丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止していれば,発生を防止できたものと認められる。 したがって,A受審人が,入航中の乙丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めたとき,同船が低速力としていたことから出航する自船を認識していて,中央ふ頭にできるだけ近寄って航行すれば左舷を対して無難に航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことは,本件発生の原因となる。 A受審人が,視界制限状態において,速やかに一等航海士を昇橋させて操船補佐に当たらせるなどして複数による船橋配置としなかったことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,本件と相当因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。 一方,乙丸が,霧のため視界制限状態となった三重式見港に入航中,適切なレーダーレンジに切り替えるなどしてレーダー見張りを十分に行っていれば,甲丸のレーダー映像を探知することができ,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,必要に応じて行きあしを停止することにより,及び北防波堤南端を左舷に見て航行するとき,できるだけこれに遠ざかって航行することにより,本件は発生していなかったものと認められる。 したがって,B受審人が,短距離レンジとしたレーダーで出航する小型漁船を探知することに気を取られ,適切なレーダーレンジに切り替えるなどしてレーダー見張りを十分に行わず,甲丸の存在に気付かず,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと,及び北防波堤南端を左舷に見て航行するとき,できるだけこれに遠ざかって航行しなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。 B受審人が,視界制限状態において,速やかに一等航海士を昇橋させて操船補佐に当たらせるなどして複数による船橋配置としなかったこと,及び甲板上の作業灯を点灯して航行したことは本件発生の過程で関与した事実であるが,本件と相当因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらのことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。 B受審人が,視界制限状態において,霧中信号を行わなかったことは本件発生の過程で関与した事実であるが,A受審人が乙丸の接近状況をレーダーで探知していたことから,本件発生の原因とならない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因) 本件衝突は,夜間,霧のため視界が制限された長崎県三重式見港において,入航する乙丸が,レーダーによる見張りが不十分で,出航中の甲丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,必要に応じて行きあしを停止しなかったばかりか,北防波堤南端を左舷に見て航行するとき,できるだけこれに遠ざかって航行しなかったことによって発生したが,甲丸が,乙丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めた際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを停止しなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は,夜間,霧のため視界が制限された長崎県三重式見港に入航する場合,出航する甲丸を見落とさないよう,時々レーダーレンジを適切に切り替えるなどして,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,短距離レンジとしたレーダーで出航する小型漁船を探知することに気を取られ,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,甲丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず,必要に応じて行きあしを停止しないまま進行して同船との衝突を招き,甲丸の左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を,左舷錨等に凹損を,乙丸の船首に凹損を,北防波堤のコンクリート部材に欠落をそれぞれ生じさせ,甲丸の乗客1人に腰椎捻挫を負わせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は,夜間,霧のため視界が制限された長崎県三重式見港から出航中,入航する乙丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めた場合,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを停止するべき注意義務があった。しかるに,同人は,同船が低速力としていたことから出航する自船を認識していて,中央ふ頭にできるだけ近寄って航行すれば左舷を対して無難に航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図(PDFファイル) 第4例 貨物船甲丸漁船乙丸衝突事件
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